モノが大好きな人にとっては、誰かの持ち物が気になるし、素敵なあの人の持ち物は欲しくなる。あの人はどんなものを持っていて、どんな家でモノに囲まれてくらしているのだろうか。

そんな欲しい、気になるというあなたの希望をバイヤーの塚本太朗が叶える「Sleeper Market」は、毎週フライデー・ナイトの20:00から翌10:00まで時間限定でオープンする売り切れ御免のマーケットです。

気になるあの人のもとに直接伺い私物を買い付けて、オンラインショップだけで販売します。

モノにまつわるエピソードとストーリーとともに、真夜中のお買いものを思う存分お楽しみください。

インタビュー記事の最後に販売商品の一覧があります。

 

Vol.6 梶原由景(LOWERCASE代表 / クリエイティブディレクター)


 

金曜の夜から土曜日の朝まで限定でオープンするミッドナイトショップ。あの人の気になる愛用品をバイヤー塚本太朗が直接アトリエや自宅に伺い買い付けをするSLEEPER MARKET6回目のゲストはデザイン、ファッション、デジタルとジャンル横断的に数々のブランドとの協働やブランディングの仕事を手掛け、長年ガジェット愛好家としても知られる梶原由景さんです。たくさんのレア物があふれるアトリエで梶原さんが近年ハマっているサウナや温泉のお話などを交えながら伺ってみえてきたのは、地に足のついた手触りのある現在の暮らしでした。

 (写真とテキスト:加藤孝司 Takashi Kato)

 

好きを通じてたどり着いたこれからの暮らし

 

もの選びはレビューを読んで


ーーまずはお二人の出会いから教えていただけますか?


塚本:雑誌「POPEYE」の梶原さんと藤原ヒロシさんも参加されていたデザインアワード企画でゲスト審査員として呼んでいただいたときでした。


梶原:もう10年以上前になりますよね。


塚本:はい。その時によく憶えているのが藤原さんがイリジウム携帯を持ってこられたことでした。あれには驚きました!ほんとに。


梶原:僕も持っているんだけど、どこに仕舞ったかな……。砂漠でも使える衛星電話ですよね。


塚本:梶原さんはたくさんのレアなものをお持ちの方としても知られていますが、どのような基準で物を選んだり買ったりされているのですか?


梶原:最近は実際にお店で物を見て買うことは極端に減っていますね。


塚本:どこもECサイトが充実して便利になっていますが、稀代のモノ好きでもの選びに厳しい目をお持ちの梶原さんでもそうなっているんですね。


梶原:買い物はだいたいオンラインです。実際にお店に行って商品を見ても、ひと目でスペックを理解することもできないから逆に迷うことも多くて。家電に関してはだいたいの大きさは実際に見なくてもわかりますから。逆にイケヤやニトリなどの量販店に行ったりすると、これは?と思うような良品に偶然出合うこともあって面白いです。実際に見て買うのは普段使いの日用品が多いかな。


塚本:なるほど~。



 

梶原:デザインに関していうと、10年以上も前から比べれば日本のメーカーのものもデザインがだいぶよくなってきたと思います。それこそ家電ひとつ買うにしても以前は海外ものしか選択肢がなかったけど、今は日本のメーカーの製品も全部とはいわないけど、すごく良くなってきた。海外ブランドのものと比べてもそこそこ邪魔にならないものも増えてきたように思います。


塚本:それはたしかにそうですね。


梶原:だから何かを買う時に昔ほどデザイン重視で選ぶ必要もなくなりました。むしろ機能重視で物を選んでも大きな間違いをすることがなくなってきていると思います。それとオンラインで買う時にはレビューはすごく読みますね。


塚本:レビューですか。確かに使ってどうだったかって、重要なポイントですもんね。


梶原:はい。物を買うにしてもホテルを予約するにしても、何に関してもレビューはしっかり読みます。でも書いてあるものをそのまま真に受けるととんでもないことになるから、書いている人のリテラシーを読み込む方に注力しているところはありますね。


塚本:そっちですか~。さすがですね。


梶原:例えば「すぐ壊れた」と書いている人は普段から乱暴な使い方をしている可能性があるから、注意して読むようにしています。最終的には一通りいろんな人のレビューを読んで自分の勘を頼りに落とし所を選んで買っています。



サウナで思考を整える

 

塚本:梶原さんは食通としても知られていますが、普段はどんなところに行かれますか?


梶原:昔から食べ歩き呑み歩きが好きでコロナ以前は結構行っていたんですが最近はめっきり行っていません。それこそ熱心な人は東京の東の方、城東地域とかにも足を運んだりしているじゃないですか。でも僕は世田谷、渋谷、横浜あたり、家の周辺がほとんどです。


塚本:そうなんですね。


梶原:それと3年くらい前からハマっているのがサウナです。友人がテレビ東京のドラマ「サ道」のプロデューサーで、それまでサウナにはほとんど入ったことがなかったんだけど、試しにとドラマに登場する上野の「北欧」というサウナに連れて行ってもらいました。そこからサウナにどハマりして、今出没するのはサウナが多いです(笑)。



塚本:僕もサウナは好きでたまに行きます。最近はサウナ関連のグッズも気になっていて、今はサウナハットが気になっているんですよね。


梶原:この間、格闘家の宇野薫さんとサウナハット作りましたよ。道着と同じ刺し子で、愛知の黒門染めでつくったんですが、コットン素材だとすぐに洗えるし清潔ですごくいいですよ。これを使い始めてからサウナ室の滞在時間が飛躍的に伸びて、ととのう回数も増えました。


塚本:そうなんですね!近場でお気に入りのサウナはありますか?


梶原:横浜の郊外にある「竜泉寺の湯」という、スーパー銭湯のチェーン店が好きでよく行っています。前職のビームスがオリジナルのグッズも作っている岐阜が発祥の温泉施設です。サウナも好きなんですが竜泉寺の湯は高濃度位炭酸泉発祥の温浴施設で、僕も炭酸泉が大好きです。気持ちがよくて疲れもとれておすすめですよ。


塚本:行ってみたい~。


 

 

ーー梶原さんは好きなものが仕事やものづくりに繋がることって結構あるんですか?


梶原:基本は自分が好きだったり出来ることしかしません。サウナもですが一度ハマるとそれが自然と仕事に結びつくことが多いです。


塚本:さすがですね。梶原さんのお仕事はファッション関係からデジタル、広告まで幅広いくて普段からすごいなあと拝見しています。


梶原:ファッションやアパレルが起点にはなりつつも、リーマンショック前はKDDISONYなど、広告の仕事ばかりやっていた時期もありました。リーマンショック後は広告の仕事からアパレルの別注の仕事がどんどん増えてきて、リブランディングや業態をゼロから作るという仕事にも携わるようになりました。大企業との仕事では拘束時間が長いわりに突然時間が空くこともあるので、そういったタイミングでサウナに行ってリセットしています。

 

 

塚本:そこでサウナを活用されているんですね!ご自宅ではお料理もされるとか。


梶原:家では料理は僕の仕事です。食材の買い物も自分で行っています。週に一度ほど半日かけて横浜の郊外にあるコストコに行きます。その帰りにサウナに行くのも日常の楽しみのひとつです。


塚本:日常の中にサウナがある生活いいですね。


梶原:マインドフルネスといいますか、サウナに行くと頭の中が整理出来るので、今やっている仕事のいくつかはサウナの中で考えたことだったりします。


塚本:いい仕事をするためにもサウナでリラックスをする時間も大切なんですね。サウナに入ることをサウナ、水風呂、休憩をひとつのセットといいますが、梶原さんは何セット入られますか?


梶原:サウナ室に10分、水風呂1分、そして休憩、そのあと仕事がある場合は2セットです。休みの日は3セットにすることもあります。プラス炭酸泉に10分ほど入ります。関西では今、温度差のある湯船に交互に浸かる温冷交代浴というのがあって、セレクトショップがポップアップをするくらい流行っているみたいですよ。


塚本:温泉のポップアップショップ!


梶原:僕は生まれが福岡で中学から大分県なんですが、竹田市には天然の炭酸泉が出るところがあるみたいで今度帰省したら行ってみようと思っています。


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馴染みの手触りを身近に感じる暮らしへ

 

塚本:事務所には気になる物がたくさんありますが、ここにあるものはお仕事関連のものが多いのですか?


梶原:仕事のもので、未整理のものがほとんどです。コロナ前の23年間は、多い時で56回は仕事で海外に行っていましたが、今事務所にあるのはその時に買ってきた資料が多いかな。忙しくてついつい放っておくからどうしても増えていってしまいますね。


塚本:本や雑誌など資料はついつい溜まってしまいますよね。どう整理されているんですか?


梶原:本は定期的に思いきって捨てています。資料として取っておきたいものはデータ化して保存しています。
コロナ前にNYで手に入れたのが、アンディ・ウォーホルが1969年に創刊した雑誌Interview Magazine1985年のマドンナが表紙の号です。これはグッチがニューヨークのウースター通りに作ったお店「グッチ ウースター」のために復刻したものです。



塚本:うわー気になります。コロナも世界中で少し落ち着きつつはありますが、前のように気軽に海外に行けないのは淋しいですね。僕も3年行けていません。


梶原:僕は最後は201912月で、ニューヨークへの32日の強行突破でした。海外によく行っていた時にはホテルのノベルティも好きでよく集めていました。


塚本:そろそろ本気で海外に行きたいですね。



 

梶原:僕もそう思っているのですが、通常営業していない現在の状況だと行ったところであまり得るものはなさそうですよね。


塚本:それはありますね……。本やガジェットの山の中にワインボトルも結構ありますね。お酒もお好きなんですか?


梶原:ここにあるのは仕事関連のギフトが多くて、イギリスのアーティスト、ダミアン・ハースト関連のワインもありますよ。六本木ヒルズのロゴもデザインしたイギリス人デザイナーのジョナサン・バーンブルックとビームスの仕事をした時に参考資料としてもらったものです。


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塚本:うわー。ダミアン・ハースト僕も好きなんですよ。これはやばい……(笑)。


梶原:ロンドンの高級住宅地ノッティングヒルのダミアン・ハーストのギャラリー内のレストラン「ファーマシー」のためにつくられたものです。薬局を模したギャラリー内にあるレストランだったからテイクアウトのラベルは英語で「Outpatients」(=外来患者)という意味です。


塚本:へー。僕も行きましたよ、ダミアン・ハーストのファーマシー。マッチを何個か持っています。


梶原:ダミアン・ハーストは他にもあって、ファーマシーの薬瓶、プレート、マッチ、パンフレットの切れ端もあります。ダミアンがギャラリーに並べると何億という価値があるものかもしれませんけど。


塚本:すご過ぎます!少し分けてもらえませんか?


梶原:「ph」のパンフレットの切れ端なら一枚いいですよ。


塚本:これはヤバイですよー、梶原さん!!ありがとうございます!


 

塚本:他に、最近ハマっていることはありますか?


梶原:本当に無趣味なのですが、仕事の都合もあり4年前に車の免許を取得してからはドライブですかね。最近は行けていませんがもともとが田舎育ちなので、沼津、三島、長野とか寂寥感のあるところに行くのが好きです。あとは子供が生まれてからは休日は子供と過ごすのが楽しいです。月に一度必ず家族で小旅行に行くことを決めていて、コロナ禍になってからは都心のホテルに宿泊したりもしています。子供は好奇心旺盛で面白いですよね。


塚本:うちも早いもので上の娘は中3になりました。


梶原:うちの子はまだ五歳なので中学生とか想像できません……


塚本:本当に子供の成長は早いです。親も歳をとるわけです。では、もう少しお買い物について教えてください。梶原さんがリアルにショップやマーケットで物を選ぶ時は直感ですか?



 

梶原:海外では直感ですね。ヨーロッパでの買い物の時に昔よく思っていたことは「EU内では買い時がわからない」ということです。


塚本:買い時とはどういう意味ですか?


梶原:同じものでもEU内各国で値段が違うことがあって、旅行中の場合買い時を決断するのが難しいんです。例えばマルタン・マルジェラの服を買うならイタリアが安いけど、どの国に行っても同じものがあるわけではないから迷っていると次の国に行ったらなかったなんてことがよくあって。僕自身そういう失敗って何度も経験してきました。だから海外では欲しいものと出合ったら迷わずに買うことにしているから事務所の机の上が物で山積みになっちゃう。


塚本:あはは。


梶原:国内では先ほど話したようにオンラインでの買い物が中心だから、その時はレビューをしっかり読んで吟味して買い物をしています。


塚本:そこは一貫していますね。

 

 

梶原:はい。それと子供が生まれたことと関係しているのですが、器などの日用品は特に自分のルーツと関わりのある産地のものを買って使うことが多くなりました。


塚本:それはいいですね。


梶原:僕が生まれた九州と嫁の出身である沖縄は焼物の産地として知られています。食育ではありませんが、子供にはなるべくルーツを感じさせたいので器は僕らの出身地にちなんで選んでいます。

今は生まれ育った場所から離れていて、子供の頃に親に何か具体的なことを教わったわけではないけど、身に沁みついている匂いとか手触りのものが身近にある暮らしはいいなと思っています。


塚本:すごく共感します。梶原さん、今日は久しぶりにお会いしてお話できて嬉しかったです。

 

 

<プロフィール>

梶原由景 Yoshikage Kajiwara

LOWERCASE代表。元BEAMSクリエイティブディレクター。モトローラなどのハードウェアメーカーと業界を超えた取り組みを行い、ソニーとはデザインホテル・プロジェクトを成功させる。異業種コラボレーションの草分けとして知られ、ファッションリテールとしてのセレクトショップの再定義を行なった。またルイ・ヴィトンとauのモバイルプロジェクトを手掛けるなどデジタル、デザインからアパレルまで幅広い業界にクライアントを持つ。また私的定番カタログ「THE ESSENTIAL THINGS 100」(晋遊舎)を上梓するなど執筆活動も積極的に行っている。藤原ヒロシ氏とコンテンツサイトRing of Colourを立ち上げ情報発信中。
http://ringofcolour.com/

 

塚本 太朗  Taro Tsukamoto

THE CONRAN SHOP退社後、リドルデザインバンクを設立。現在はTHINK OF THINGSMD企画担当。また、商業施設や駅ナカのショッププロデュースをはじめ、地方活性化の為の商品企画からトータルディレクションをする傍ら、ドイツとオーストリアから買い付けたウェブショップ「マルクト」も運営。著書にマルクト(プチグラパブリッシング)、ウィーントラベルブック(東京地図出版)、ウィーンこだわり旅ブック(産業編集センター)など。