モノが大好きな人にとっては、誰かの持ち物が気になるし、素敵なあの人の持ち物は欲しくなる。あの人はどんなものを持っていて、どんな家でモノに囲まれてくらしているのだろうか。

そんな欲しい、気になるというあなたの希望をバイヤーの塚本太朗が叶える「Sleeper Market」は、毎週フライデー・ナイトの20:00から翌10:00まで時間限定でオープンする売り切れ御免のマーケットです。

気になるあの人のもとに直接伺い私物を買い付けて、オンラインショップだけで販売します。

モノにまつわるエピソードとストーリーとともに、真夜中のお買いものを思う存分お楽しみください。

インタビュー記事の最後に販売商品の一覧があります。

 

Vol.5  小林和人(Roundabout / OUTBOUND 店主)



愛用品からその人のライフスタイルも垣間見える本企画。今回は吉祥寺のショップ<アウトバウンド>と、代々木上原の<ラウンダバウト>の店主で、もの選びに定評がある小林和人さんにご登場いただきます。自宅で使うもの、お店で取り扱うものについてや、日々生活良品を扱う小林さんの生き方についてまで話が広がっていきました。お店には並んでいないけど、気になって買い付けてきた愛用品を前に、小林さんと太朗さんの物をめぐる対談をお伝えします

 (写真とテキスト:加藤孝司 Takashi Kato)

 

日用品と、もの選びと、気晴らしと。 

 

和をもって尊しとなす

 

ーーお二人の出会いから教えてください。


小林:最初は共通の友人のtupera tupera(ツペラツペラ・イラストレーションなどを行う亀山達矢さんと中川敦子さんのユニット)のカメくんとでしたっけ?ほかにも平澤まりこさん、福田利之さん….


塚本:ライターの上條佳子さん、いなきよしこさん、杉浦さやかさん、木下綾乃ちゃんとか。2000年くらいだと思うけど、そのメンバーで仲良くつるんでいるときに和人くんとも会ったんだよね。


小林:そんな昔でしたか。吉祥寺駅の今とは反対側の元キャバレーがあったビルに僕の最初の店「ラウンダバウト」をオープンしたのが1999年でしたからその頃ですね。3階には「フロア」というカフェがあって。


塚本:そうそう。当時僕はコンランショップに勤めながらリドルデザインバンクとして活動をしている頃でした。


小林:デザインユニットブームの時代でしたよね。二俣公一さんの「ケースリアル」、尾原史和くんの「スープデザイン」だったり。リドルは廃棄されるコンセントでつくった携帯ストラップが人気だったよね。


塚本:あはは、毎回その話になるんだよね(笑)。


塚本:当時、高円寺にアトリエがあって、今もパートナーだけど一緒にコンランショップで働いていた三輪くんたちとそこでシコシコ作っていました。和人くんもだけど、吉祥寺方面のみんなで集まっていたんだよね。プチグラ企画で男女混合でフットサルをしたり。


小林:そうそう。僕も23回参加した記憶がある。帰りに焼き肉行ったり楽しかったなあ。




 

小林:仕事のあとの集団スポーツって新鮮でしたねえ。昔から体力的には自信があったんだけど、フットサルで四十路の曲がり角というものをひしひし感じましたね。学生時代、水球をやっていたから別のチームでの試合でキーパーをやった時には始めのうちはよく止めるんですよ。でも球のコースが脇下に集中し始めると全然取れなくて、仲間からも「おい!」なんて怒られて(笑)、なんで脇下の球だけ止められないんだろうと考えたんですけど、後で分かったんですよ。水球では脇下といったらもう水の中なので、そもそも無いんですよ、脇下の空間という概念が。


塚本:笑


ーー小林さんは一見クールだけれども、集団スポーツを楽しまれるんですね。


小林:全然クールではないんですが、名前が和に人と書いて和人なので、和をもって尊しとなすということは比較的重んじていますよ。そういう意味では集団スポーツに向いているかも知れないですね。でも最終的には空気を重んじた表層的な和より、自分の意見はしっかり言うことを大事にしています。その結果、暑苦しいという評価に落ち着くことが多いですね。


塚本:はいはい。

 


小林:それこそ販売業には集団スポーツの経験が活かされてますよ。例えば目の前のお客様に向き合いながらも常に逆サイドを視野に入れるとか。でも油断するとついつい話し込んでしまうんですよね(笑)。


塚本:ラウンダバウトのようなお店の場合、ものがきちんとコミュニケーションツールになっているから、好きで仕入れて販売しているならなおさら伝えることが大切になるよね。


小林:うん。手渡すときにはなるべくそのものの背景も併せて伝えたいね。

 


 


吉祥寺の前のお店のこととか

 

塚本:お店で販売しているものは基本的に家でも使っているものが多いんですか?


小林:基本的にはそうですね。道具については実際に使ってみることが多いです。太朗さんは割と早い段階からベルリンとかで買い付けをしてましたよね。僕もそんなに頻度は高くないけどたまに海外の蚤の市に買い付けに行ったりしていました。でも旅の非日常性というんですかね、その時の高揚感で買ったはいいけど、いざ店でどう置くか考えちゃうものも多くて、そのまま自宅で寝かせているものが結構あるんですよ。


塚本:そういうものを買い付けたい!元キャバレー時代だったけど、曲がりくねった古い階段を登って、初めてラウンダバウトに並んでいるものを見たときはすごくワクワクしたことを今でも憶えているよ。



 

ーー今のお店にも受け継がれているけど、店内の棚の間を歩きながら、次の角を曲がると何があるんだろう、という路地を歩いているようなワクワク感がありますよね。


小林:嬉しいですね。物事って経験を重ねていくと整理されていってしまうじゃないですか。でも店の魅力として考えたとき、必ずしもそれが良いこととも限らないとも思うんですよね。だから最近は、店に並ぶもののセレクトも整理されていって削ぎ落とされすぎないよう気を付けてます。むしろ初期ラウンダバウトにあった、なんだこれは?というような割り切れない素数のような要素がなくなってしまわないように、ということは常に意識していたいと思っています。

 

 

小林:たぶん、初期のお店に並んでいたちょっと変なものって、「意味」はなさないだけど、「意味外」の働きをしていたんじゃないかと。


ーーはいはい。どこか逸脱するものの楽しさですよね。


小林:そう。でも逸脱しようとして意図して飛び越えたものではなく、未分化な状態というか、整理される前の混沌にも確実に意味外の価値があるはずだと思っていて。自分のセレクトに基準があることは重要ですが、そこから逸脱するものがあったほうが店としては面白いのかなと思ったりします。


塚本:確かに!そういうものほど、すぐに売れたりしてしまうかも。

 

 

小林:店としてのオーガニックな感じは残していたいなとも思っています。


塚本:和人くんならではと思うけど、そういう人間味というかそういうところは好きだなあと思っていますよ。和人くんが商品選定に携わっている富ヶ谷のセレクトショップ「LOST AND FOUND」も、どこかおかしなセレクトでらしくていいんですよ。


小林:わー、それ嬉しいなあ。


ーー個人的にはいつ行っても売れ残っている商品って気になります。お店にはだめなのかもしれないけど、まだいるね、なんて密かに愛着をもったりして。小林さんのお店の場合だとレジ前のショーケースに入っているものとか、小林さん好きなんだろうなあと思いながらいつも気になってチェックしています。


小林:ショーケースの中のものはついつい気になりますよね。ちなみに、ココナッツと貝殻でできた土産物とかが並んでいるさびれた蕎麦屋のウインドウが好きで、街で見かけたらついついチェックしちゃいます。最初期のラウンダバウトにはそういった見過ごされがちなものへのシンパシーが、少なからず反映されていたかもしれません。


ーー窓辺に少し日に焼けて売れ残ったものへのまなざしですね。


小林:そう、少しメロウなね。でも現ラウンダバウトにはそういった哀愁を帯びたものが減ってきているかもしれないな。どこに出しても恥ずかしくないような良品だけになってしまうのも店としては少し淋しいですよね。また、カタログみたいに一覧できる店ではなくて、お客さんが回遊しながら探す楽しみは店作りにおいて大切にしています。




意味と非意味に関して

 

塚本:ものを選ぶときの基準はどんなことですか?


小林:著名なデザイナーがデザインしているかとかはあまり重要ではなくて、初めて見るのに前から在るような佇まいをしているものに惹かれますね。それは変な意味での既視感だったり、なになにぽいっていうのとは真逆で。あとは、いろいろな事情によって余計な要素が後付けされてしまっているものがすごくいやで。


塚本:それわかります。


小林:もっとそれ自体で、目的に向かって寄り道していないものが好きです。業務用の製品なんかはそういう意味で惹かれます。

ブルーノ・ムナーリの本の中で「コップらしいコップ」という言葉があるんですよ。とあるお店に迷い込んだムナーリが、甲冑のかたちをした傘立て、ブーツのかたちをしたジョッキといった、奇をてらったものばかりにめまいを起こして店を飛び出し、最後に「わたしが欲しいのはただ、コップらしいコップである!」と叫ぶという、「夢のある贈り物」という皮肉に満ちたコラムがあって、これはものづくりに関わる方々には是非一度読んでいただきたいですね。


塚本:へ~!なるほどね。


小林:あとは物を選ぶときに大事にしているものに、スウェーデンのデザイナー、インゲヤード・ローマンさんの2つの言葉があります。「timeless」と「self-evident」というもので、それぞれ、「時を経ても色褪せない普遍性」、「その物自体が示す自明性」と解釈しているのですが、実は10年前に出版した自著『あたらしい日用品』のサブタイトルにもしています。僕の隠れテーマといってもよいかもしれません。たろさんは物を選ぶ上でそういうのってあったりします?


塚本:ほ~。僕は特にないなぁ。ほぼ直感。売れる売れないはどうでも良いんです。好きか嫌いか。です。

 



 

小林:でもそこを突き詰め過ぎて禁欲的になりすぎても店としてのワクワク感が失われてしまうので、いい意味での猥雑さみたいなものが混ざりあったほうが場の魅力には繋がるなるのかなとは思っていますが、そこはバランスですね。


ーーそれはそう思いますね。写真論でも「ストゥディウム」と「プンクトゥム」という言葉がありますね。簡単にいうと前者は「一般的」で後者は「それを揺さぶるもの」という意味ですが、プンクトゥム的な「おや?」というものが時にお店に豊かさというか広がりをもたらしてくれたりしますよね。


小林:そうそう、『明るい部屋』ですよね。バルトのプンクトゥムという言葉は自分でもずっと頭の中に響いている言葉です。それを自分では「違和感と魅力の未分化な状態」と解釈しています。あと大竹伸朗さんの『既にそこにあるもの』という本に「『雑』の領域」という言葉があって、自分の中では「プンクトゥム」と近い言葉としてセットになっていますね。


塚本:「『雑』の領域」。う~ん。奥が深い。。。

 

 

小林:すべてが説明できても面白くないというか、最近考えているのが、人間は意味と非意味の振幅の中で生きているんじゃないかということです。


塚本:なんか難しそう。どういう意味?


小林:意味を求めた生活ばかりをしていても疲れちゃうじゃないですか。そうならないためにも時に人間は意味とは少し離れた、「非意味」の領域に身を置く必要があるんじゃないかということです。それってつまり「気晴らし」なのではないかと思っています。


塚本:気晴らしですか?好きな言葉です(笑)。


小林:樫永真佐夫さんという文化人類学者が書いた『殴り合いの文化史』という本の中で、スペインの哲学者オルテガ・イ・ガゼーによる『狩猟の哲学』からの一節として引用されている言葉です。オルテガいわく、人間は本能が壊れた被造物であると。動物は本能のままに生きるにまかせていればいいんだけど、人間はただ何となく生きるだけではすまされず、いつもあるありようから一時的に身を離し、もう一つの別の自己へと転換することが求められる、それが「気晴らし」であると。でも気晴らしといっても浮ついたものではなく、「何かに身を捧げる」、つまり「献身」であると説いているんですね。その本の中ではそこから狩猟がスポーツへと変化していったと続くんですが、気になったら読んでみてください。


塚本:はい。読書すると眠くなってしまうな……(笑)


 

小林:僕が扱っている手仕事の物でも、作ることに没頭しているあいだは「気が晴れている」のではないかと思うことがあります。土器作家の熊谷幸治さんは、「没頭しているときに生まれたものは、その作り手のキャリアの深さ浅さに関わらずいいものであることが多い」と言っています。


塚本:スポーツでもよくいわれる「ゾーン」ですかね?


小林:まさに。ゾーンに入った状態のスポーツ選手のプレイを見ていると、観客の我々まで気が晴れますよね。それはおそらく物づくりでも同じことが言えて、出来上がったものに作り手の気晴らしの時間が溶け込んでいるからこそ、それを触れるこちらまで気が晴れるのかなと思います。


手仕事のものだけではなく、ここラウンダバウトに並んでいる様な量産品の場合でも、長く使う過程でそれを愛用した時間が様々な痕跡とともに蓄積されて、最初の均一な表情から深みのある顔へと変化していくうちに気晴らしをもたらしてくれる存在に育っていくということはあると考えています。

 


 

塚本:僕もたまに越前に和紙漉きに行っているんだけど、和紙を漉いている時は正に無心で、集中しているんだけど何も考えてないというその時間が本当に気持ち良くて。いま和人くんが言ったのもそういうことなんだろうなあと思いました。まさに「気晴らし」ですね(笑)。



ーーお買い物にもいえたりしますか?。


小林:買い物と気晴らしの関係も密接だと思いますよ。植草甚一も自身のエッセイの中で、街に出たら何も買わずには家には帰れないと言っています。でもそれは高価なものである必要がなくって、他の人からしたら意味のない他愛のないものでいいんです。そのものと自分が人知れずささやかな密約を交わすことさえできれば。つまりはそれがその人にとっての「気晴らし」になるんだと思うんです。


塚本:わー、すごくいい言葉ですね。では、和人くんを気晴らしているものたちを買い付けさせてもらいますね。


小林:まあ、過去の気晴らしの残滓というか(笑)、ココナッツと貝殻の土産なものも含めてご笑覧いただけましたら!

  


<プロフィール>

小林和人 Kazuto Kobayashi

1999年、吉祥寺の古いキャバレー跡のビルで国内外の生活用品を扱うRoundaboutを友人数名で始める。2008年、物がもたらす作用に着目した品揃えを展開するOUTBOUNDを開始。建物の取り壊しに伴い2016年にRoundaboutを代々木上原に移転。2021年には「LOST AND FOUND」(ニッコー株式会社)の商品選定を担当。
Instagram @kazutokobayashi
https://mendicus.com

 

塚本 太朗  Taro Tsukamoto

THE CONRAN SHOP退社後、リドルデザインバンクを設立。現在はTHINK OF THINGSMD企画担当。また、商業施設や駅ナカのショッププロデュースをはじめ、地方活性化の為の商品企画からトータルディレクションをする傍ら、ドイツとオーストリアから買い付けたウェブショップ「マルクト」も運営。著書にマルクト(プチグラパブリッシング)、ウィーントラベルブック(東京地図出版)、ウィーンこだわり旅ブック(産業編集センター)など。