
モノが大好きな人にとっては、誰かの持ち物が気になるし、素敵なあの人の持ち物は欲しくなる。あの人はどんなものを持っていて、どんな家でモノに囲まれてくらしているのだろうか。
そんな欲しい、気になるというあなたの希望をバイヤーの塚本太朗が叶える「Sleeper Market」は、毎週フライデー・ナイトの20:00から翌10:00まで時間限定でオープンする売り切れ御免のマーケットです。
気になるあの人のもとに直接伺い私物を買い付けて、オンラインショップだけで販売します。
モノにまつわるエピソードとストーリーとともに、真夜中のお買いものを思う存分お楽しみください。
インタビュー記事の最後に販売商品の一覧があります。
Vol.1 小川糸(小説家)

第一回目のゲストは小説家の小川糸さん。太朗さんと小川さんはバルト三国のラトビアで出会って以来交流が続いているとか。都内の閑静な住宅街の集合住宅にお住まいの糸さんのお部屋には、長年使い込まれたお気に入りのものが整然と並んでいます。数年前までドイツで暮らしていたそうで、長年、ドイツの雑貨を買い付けてきた太朗さんとは、ドイツの雑貨話で盛り上がりました。さてどんなものを買い付けることができるのでしょうか。
(写真とテキスト:加藤孝司 Takashi Kato)
「小説家の小川糸さんとドイツと雑貨のお話」
ベルリンで過ごしていたときのこと
塚本:最初にお会いしたのはラトビアでのプレスツアーでしたよね。何年前でしたっけ?
小川:5年前でした。私は本の取材でした。
塚本:糸さんは当時ベルリンにお住まいでしたよね?
小川:はい。ベルリンからラトビアへは飛行機で1時間で行けちゃうんです。そうそう、ベルリン・テーゲル空港が閉鎖されたのは知っていましたか?
塚本:え?そうだったんですか?2年もドイツに行ってないからなぁ
小川:ベルリンには2年半暮らして、夏だけだと10年くらい行っていましたが、テーゲルは街からも近くて便利だったんですけどね…。不便になりました。

塚本:前にベルリンの小川さんの家に伺った時に、すごく気になるものがたくさんあって、今回お声がけさせていただきました。ベルリンから東京に持ってきたものも多いと思いますが、小川さんは使い勝手のいいものを長く使うタイプという感じですか?
小川:本当にそういう感じです。気に入ったものは長く使いたいので、壊れた時のストック用に複数買うこともあるくらいです。自分に合うものしか身の回りに置きたくないので、東京とベルリンの部屋もだんだん似てきたくらいです。
塚本:なんとなく分かる気がします。でもなぜベルリンだったんですか?
小川:まずは空気です。一年を通して乾燥していて、夏が日本にみたい暑くないいところが気に入っていました。それと街全体に流れるのびのびとした自由な空気感が好きでした。

塚本:僕もドイツは買付けでよく行くのですが、食事も美味しいものがたくさんあるわけじゃないけど、ベルリンっていいですよね。そっか、日本ではあまり感じない自由な空気感、ありますよね。でも冬はものすごく寒くないですか?
小川:でも家の中はあたたかいし、暮らしてみるとそうでもないですよ。空気感もですが、ヨーロッパ特有の冬の一度全部が終わって春になり再生していく感じが忘れられなくて…。クリスマス・マーケットの感じもすごく好きだし、ベルリンの人たちは雪を待ちわびている風情があって、湖が早く凍らないかなあとか思っていたり、私自身ももっと寒くなれ〜と思っていましたね。冬が寒くて暗いからこそ、たまにのぞく太陽の光のありがたみも感じていました。
塚本:暮らしてみないとわからないこともありますよね。帰国するときにベルリンで使っていた家具は全部持ってきたんですか?

小川:椅子とキャスター付きのワゴンだけですね。ベルリンから東京に持ってきたい家具はもっとありましたが、東京の家のスケールには大きすぎて、ほとんど友人に譲ったりして諦めました。向こうの家は天井が高いから同じものでもさほど大きく感じないんですよね。
塚本:へえ〜。天井が高いのはいいですよね。
小川:ベルリンでは古いアパートでしたがセントラルヒーティングだし気密性が高いから冬でもあまり寒さは感じなかったですね。ドイツはいろんな面で住環境に関する意識は高いと思います。でもある冬、ボイラーが故障してアパート中のヒーターが止まることはありましたけど。
塚本:うわー。その時はどうするんですか?ひたすら耐えるんですか?
小川:電気ストーブであたたまったり、サウナに行きました。ベルリンでサウナ、おすすめですよ。

長く使えるいいものを少しずつ
塚本:糸さんのモノ選びについてお聞きしたいのですが、やっぱり長く使えるものを少しずつ、という感じですか?
小川:そうね。いくらたくさんのものを持っていても、カップとかがそうだけど、今使うものはひとつじゃない?だから選ぶことの楽しさよりも、本当に気に入ったものを毎日使いたいと思っています。だから今日使っているこのカップも実は同じものをたくさん持っているの(笑)。
塚本:これはどこで買ったものですか?
小川:二子玉川の「KOHORO」で買って、気に入って買い足しました。

塚本:気に入ったものはたくさん買うんですね。
小川:はい。でも最初からではないですよ。出合って使ってよかったものは、壊れて使えなくなっちゃうのが嫌だから買い足せるものは買い足します。「エフスタイル」の銅の鍋は使いやすくていくつも買い集めて愛用しています。
最近だと韓国で買ったとっ手に鳥がついた銅製のポットもすごく使いやすくて、山小屋でも同じものを使いたくて友人に頼んで現在もう一つを韓国にキープ中です(笑)。
塚本:へ〜、これはすごくかわいいですね。
塚本:ハンドルの部分も革が巻いてあって持っても熱くないんですよ。

ー銅製品がお好きなんですね。
小川:はい。銅のやかんも使っています。以前は鉄瓶も使っていたけど、銅だと熱伝導がいいからすぐお湯が沸きますし、銅の鍋は頼めば磨いて新品みたいにして戻してくれるからすごくいいんですよ。一番古いので10年は使っています。これからもずっと使いたいと思っています。

ー買い物をして失敗しちゃったなと思うこともあるんですか?
小川:何回もあります。若い頃は見た目で判断して後悔することもあったけど、年を重ねて失敗する確率は減ってきた気がします。でもモノによってはその時は失敗した!と思っても2〜3年して引っ張り出してみると馴染むものもあって、不思議ですよね。
塚本:ベルリンもそうだけど、海外ではマーケットとか古いものが売っている蚤の市が盛んですよね。
小川:ベルリンの家の近くでも毎週蚤の市がたっていました。ベルリンでは生活道具にしてもまず新しいものを買うということにはどこか抵抗があって、なにかなくなったと思ったらまず蚤の市に行って安く手に入れたり、そういう文化が根付いているのはいいなあと思いました。

そろそろ太朗さんが買い付けを。
塚本:モノ自体はそんなに多くないですよね。
小川:収納棚の中とかもそうだけど、なるべく余白をおいておきたくて。
塚本:僕はついついものが増えちゃう。減らしたいとは思っているんだけど、仕事がら目に入るものすべてが欲しくなっちゃうんですよね。
ーでは、そろそろ買い付けを…。
塚本:そうしますか。糸さんは原稿を書くのはパソコンですか?
小川:いつもはパソコンで、ゲラを書く時には鉛筆で書きます。
塚本:鉛筆!糸さんが使ってる鉛筆いいですね。買い付けたい。。。

小川:いいです。すごいお気に入りの鉛筆があって、いつもそれを使っています。
塚本:三角なんですね。
小川:ゲラを書く時は「くもん」のこどもえんぴつで、サインをする時に使っているのはドイツの「ファーバーカステル」のジャンボグリップの色鉛筆です。三角はすごく持ちやすいんですよ。
塚本:へえ〜、これは子ども用だ。くもんが鉛筆を出しているんですね。知らなかったです。
小川:使って短くなっているけど大丈夫ですか?新しいものを出しましょうか?
塚本:いや、使いかけがいいです(笑)。この鉛筆削りはどうですか?
小川:いいですよ。これはドイツのマニュファクタムで買ったものです。もしかしたら削りカスが入っているかも。

塚本:入っているままで大丈夫です(笑)。しかし重たい感じがドイツな感じですね。
ところで、このワイヤーのモビールもかわいいですね。これもいいですか?
小川:それはパリのピカソ美術館の近くのマレ地区にある雑貨屋さんで買いました。確かアフリカの作家ものだったかな?フォルムが可愛らしくて。

塚本:デスクの上にはペーパーナイフがたくさんありますけど、お好きなんですか?
小川:好きで集めていますね。パリの蚤の市やベルリンの文房具屋さんで買ったりしたものが多くて、マーケットに行くとついつい探してしまうアイテムのひとつです。封筒をペーパーナイフで開けるのが大好きなんですね。
塚本:魚モチーフのペーパーナイフも可愛いですねえ。ペーパーナイフはこれとこれと3本欲しい!

小川:気に入っているけど、他にもたくさんもっているので大丈夫ですよ。
そうそう、ペーパーナイフといえばひとつ思い出があります。以前、パリのジャン・デュボ社に行ってライヨールのすごくいいペーパーナイフを買ったら、空港で没収されちゃったんです。ナイフなら分かるけど、いくらペーパーナイフです!と言っても駄目で、手荷物にしたのが私の失敗でした。あの時は悔しい思いをしましたね。
塚本:それはめちゃくちゃ残念でしたね……そういうの凹みますよね。ところで、この木製のケースはどんなものですか?
小川:ベルリン時代に手に入れたもので、お裁縫道具入れとして使っていました。蛇腹式になっていて、くるっとドアを閉じることができてかわいいんですよ。


塚本:ベルリンではお気に入りのお店はありましたか?
小川:ドイツ国内に何店舗からある「マニファクタム」です。
塚本:あそこいいですよね〜。僕もドイツに行ったら必ず行くお店です。
小川:ドイツに行ったら必ず行きますよね。ドイツのいいものが欲しいと思ったらまず行くお店です。行くと楽しくなるし、本当にいいお店だと思います。
塚本:コロナ禍になって全然ヨーロッパには行けなくなっちゃったんだけど、雑貨屋さんとか蚤の市は開いているのかなあ…。
小川:ドイツも感染者数がまた増えてきていて心配ですよね。
塚本:糸さんと話していたら、またドイツやオーストリアに買い付けにいきたくなっちゃいました〜。
<プロフィール>
小川 糸 Ito Ogawa
小説家。2008年小説『食堂かたつむり』でデビュー。『サーカスの夜に』(2015)、『ツバキ文具店』(2016)、『ライオンのおやつ』(2019)、『とわの庭』(2020)など、小説、エッセイなど多数出版。作品はこれまでイギリス、イタリア、韓国、中国、台湾、フランス、スペイン、イタリアなどで翻訳・出版されている。2011年、「食堂かたつむり」はイタリアのバンカレッラ賞、2013年、フランスのウジェニー・ブランジェ賞を受賞。作品はテレビドラマ化、映画化もされている。
塚本 太朗 Taro Tsukamoto
THE CONRAN SHOP退社後、リドルデザインバンクを設立。現在はTHINK OF THINGSのMD企画担当。また、商業施設や駅ナカのショッププロデュースをはじめ、地方活性化の為の商品企画からトータルディレクションをする傍ら、ドイツとオーストリアから買い付けたウェブショップ「マルクト」も運営。著書にマルクト(プチグラパブリッシング)、ウィーントラベルブック(東京地図出版)、ウィーンこだわり旅ブック(産業編集センター)など。