モノが大好きな人にとっては、誰かの持ち物が気になるし、素敵なあの人の持ち物は欲しくなる。あの人はどんなものを持っていて、どんな家でモノに囲まれてくらしているのだろうか。

そんな欲しい、気になるというあなたの希望をバイヤーの塚本太朗が叶える「Sleeper Market」は、毎週フライデー・ナイトの20:00から翌10:00まで時間限定でオープンする売り切れ御免のマーケットです。

気になるあの人のもとに直接伺い私物を買い付けて、オンラインショップだけで販売します。

モノにまつわるエピソードとストーリーとともに、真夜中のお買いものを思う存分お楽しみください。

インタビュー記事の最後に販売商品の一覧があります。

 

Vol.4 柳沢小実(エッセイスト)


今回の Sleeper Marketのゲストはエッセイストの柳沢小実さんです。台湾やベトナム、香港を中心としたアジア雑貨のスペシャリスト、整理収納アドバイザーとして発信も多い柳沢さんですが、日本や北欧のクラフト、フランス雑貨についての著書もある、世界中の暮らしについてお詳しい方です。太朗さんとは長いお付き合いだそうで、お二人の出会いから、小実さんの雑貨遍歴などについて、アジアのお茶菓子をお供に楽しく語り合いました

 (写真とテキスト:加藤孝司 Takashi Kato)

 

アジアと北欧と暮らしをめぐる果てしのない旅 

 

2人が出会ったころのこと

 

柳沢:初めてお会いしたのいつでしたっけ?昔すぎて憶えていません(笑)


塚本:かなり前でしたよね?

 

塚本:う~ん、いつでしたかね。確実に震災前ではありましたよね。

 


柳沢:はい。私が憶えているのはリドルデザインバンクの拠点でもある、駒込のお店に伺ったことです。でも2000年前後からこちらはポパイやオリーブなどの雑誌で太朗さんのことは拝見していて、一方的にみていた感じでした。


塚本:あはは。中原慎一郎さんが代表を務めていた時代のランドスケーププロダクツさんや、大阪のグラフさんなど、ライフスタイル雑誌でデザイングループがたくさん取り上げられている時代ですね。懐かしいな~。



 

ーー当時は柳沢さんはどんなことをされていたんですか?


柳沢:太朗さんのことを知った頃はまだ一読者でした。28歳で初の著書を出させていただくまでは、ZINEやフリーペーパーを友人とつくっていました。ものづくり系の方への取材などを通じて、自分も暮らしに関して興味が深まってきた頃でした。


ーー太朗さんたちが登場するまでは、雑貨や家具といえばF.O.B COOPとかでデュラレックスのグラスやフランス雑貨を買って、という感じでしたよね。


柳沢:F.O.B COOP!私も大好きで、高校生の頃から広尾のお店に通っていました。


塚本:僕はよくあの場所で元カノとお茶をしていました(笑)


柳沢:羨ましい!高校時代はちょっと大人すぎる空間に思えて、お茶なんてできませんでした。放課後は都立中央図書館で勉強をして、アメリカンファーマシーとF.O.B COOP、ナショナル麻布の二階の雑貨店にも行っていました。買えないからみているだけでしたけど。


塚本:なかなか海外に行けなかったですからね。ナショナル麻布の壁に「英会話教えます」とか「不用品上げます」とか、手書きでメモが貼ってあったなぁ~。電話番号も書いてあって。外国のスーパーってこんななのか~って(笑)

 


ーー僕は外苑前のパリススキャンダルが好きでしたね。


塚本:あったね~。懐かしいなあ。外苑西通りからちょっと入ったところですね。


柳沢:今の子どもたちは、すでになんでも揃っているし、親もおしゃれだから得ている情報の密度は私たちとはだいぶ違いますよね。


塚本:そうそう。


柳沢:私たちは実際に手にする以前に、憧れの時代が長かったから、それゆえに強烈ですよね(笑)。私自身はヨーロッパから日本のものづくり、北欧にいって、それでアジアのものづくりに魅了されていきましたね。自分で執筆の仕事をするようになってからも、毎年海外には行っていて、コロナ前は年に2~3か月は台湾など海外に行っていました。すこし異常ですよね(笑)。そういうのって、憧れが強いからこそ、自分の目で見てみたい!というスタンスが培われたように思います。

 

 

小実さんの世界の歩き方

 

塚本:小実さんが最初に出版された本は北欧の本ですか?


柳沢:一冊目は『ていねいな暮らし』(2003年)という暮らしの本でした。それで何冊目かで北欧の本を出させてもらいました。雑誌「オリーブ」世代だから、最初はフランスに憧れがあって。小学生の時に家族旅行でフランス、イタリア、スペイン、スイスに行って、大学の卒業旅行もフランスでした。


塚本:そっかー。いろんなところに行かれてるんですね!


柳沢:当時は北欧もそうですが、音楽とかカルチャー込みでものに触れている感覚はありましたね。


塚本:僕は北欧で言うと、スウェーデンはまだ行ったことがないんだよなぁ。


柳沢:え~、すごく良いのでぜひ行ってください!街から数十分車で走るとのどかな雰囲気になって、北欧の国々はだいたいそんな感じで、サイズ感がすごくいいんですよ。


塚本:また、行きたくなってきちゃったなあ。北欧は割と乗り換えるだけのことも多く、まだまだ未開拓の地が多いです。

 


柳沢:コペンハーゲンは都会ですけど、ストックホルムはちょうどよくって、ヘルシンキ、少し足を伸ばしてエストニアまで。北欧はどこも物価が高いから、長旅派の私はいつも一人でユースホステルに泊まっていました。知らないおじさんと二人きりで同じ部屋に泊まらさせられたこともあったり。ぜんぜん優雅じゃない……。三角ミトンの編み図を探しに、北の方の少し離れた町の図書館まで行ったこともありました。


塚本:へぇー。面白そう。そうやって旅で得たものが著書の参考になったりしているんですか?


柳沢:そうですね。特に北欧は自然環境的に冬が長くて、必然的に家の中で過ごす時間が長くなるから、身の回りを整えたり、みんな家で過ごす時間を大切にしていますよね。北欧の人々のそんな暮らし方には、すごく影響を受けているかな。フランスからは「アートに暮らす」感じを学びました。私的には落ち着いて暮らしたいという思いが強いから、北欧のコージーなところがリアリティがあってしっくりきました。


塚本:なるほどね~。確かに寒さとおうち時間は北欧ならではですよね。ライフスタイルはデザイン面も含めて、全部憧れちゃいます!ところで、アジアはどうですか?


柳沢:アジアはエネルギッシュで、どの国にも独自の感性があるように思います。おしなべて家と外のボーダーがなくて、食事は屋台文化が発達しているから外食中心で、本当になんでも美味しくて、しかも日本では考えられないくらい安くて。外にキッチンもリビングもあるような、いい意味でカルチャーショックを受けました。

 

 

塚本:小実さんが台湾に行き始めたのはいつくらいからですか?


柳沢:東日本大震災の少し前で、2010年くらいでした。


塚本:何かきっかけがあったんですか?


柳沢:とにかく海外旅行が好きで。でもヨーロッパだと予算の関係で年に一回行くのが精一杯ですよね。もうちょっと気軽に行きたくて、年一の大きな旅行の合間に台湾に行ったのが最初でした。現地の友だちが出来てからは、訪れる頻度も加速度を増していきました(笑)。


塚本:最初から仕事にしようと思っていたんですか?


柳沢:いや、全然そんなことはなくって、だから仕事的にみれば効率が悪いんだけど、自然と魅力にはまっていって、つかれたように通いつめているうちにいつの間にか仕事になっていたという感じです。だから、旅先でのスケジュールも行きあたりばったり。

収納もそうだけど、最初は趣味で、全部あとからついてきます。夢中になりすぎて、我ながら何をやっているんだろうかと思うこともあります。

 

 

塚本:でも、好きから入ったものだから、読者や受け手も信頼できるんじゃないかな。


柳沢:そうだといいな。お仕事もそうですが、自分ごととして捉える感覚は大切にしているかも。でも、お仕事だとプライベートの旅行では足を踏み入れることが出来ないところまで行けたりもして、だからこそしっかり伝えたいなあといつも思っています。



そろそろ太朗さんが買い付けを

 

塚本:えーと、小実さんのお買い物の視点を少し教えてもらえますか?


柳沢:基本、旅先で買い物をすることが多いです。しかも、食材も含めてかなりの日用品を旅先で買っています。ほぼ買い出しですね。


塚本:えー!そうなんですか!!


柳沢:それと、飾るものよりも使うものを中心に買うタイプです。オブジェ的なものを好んで買われる方も多いですが、自分には出来ないから、素敵だなあと思います。


塚本:ものは長く使うタイプですか?


柳沢:そうですね。実家から持ってきたカゴは40年の付き合いだし、家具も実家から持ってきたものが多いです。

 


 

塚本:家具はそうだけど、食器とか割れちゃうじゃないですか?


柳沢:だから最近、金継ぎを習いはじめました。日々大切に扱って、食器棚にしまうときも、食器の間に紙をはさんでしまっています。食器はきれいにつかいたいんです。アジア各国で見つけた中国を中心としたアジアの民藝が好きで、絵付けのお皿やポットなどを行くたびに買ってきているのですが、現地ではそういったものはすたれてきていて、次行くとシンプルな西洋風のものになっていることが多くて。アジアの国々では、新しいものイコールよいもの、という風潮があるように思います。


塚本:お値段はどんな感じなんですか?


柳沢:ほとんどは日常的に使える雑器で、清朝の器など、貴重なものも少しあります。

 

 

塚本:これいいなあ。可愛い!!


柳沢:でしょ。アジアの柄物もいいですよね。5~60年前の景徳鎮の焼物や、ベトナムのソンベ焼きなど、少し古いものが好きです。マカオやマレーシアのチャイナタウンに行って、いろいろ探してみると面白いですよ。


塚本:でも、古いものなのに蓋とかも割れていなくてよく残ってくれていますよね。


柳沢:これは蓋碗という茶器で、本来は蓋つきの茶碗と茶托のセット。なので、もしかしたらお皿もついていたのかもしれません。いつも行く時は空のスーツケースに梱包材を詰めて旅に出ます。まさに私にとってはアジアへの旅は日常なんです。台湾なんて渋谷に行く感覚と一緒です。


塚本:(笑)


 

柳沢:アジアは文化が混ざっている感じが好きなんですよね。文房具なんて時にそうだけど、日本のものの質は世界一だと思っていて。それはそうなんだけど、それはこれ、これはこれという感じなんですよね。台湾のマスキングテープやシール、香港のティッシュとかパンダ柄が入ったベルベット素材のスリッパも本当に可愛くて。

 

 

塚本:可愛いじゃないですか!ここらへんの小さな器もいいなあ。自分が欲しいくらい。台湾とかベトナムとか行きたくなってきたなあ。


柳沢:でしょー。太朗さん、さすがいいもの選ぶなあ。でも、前情報もなく、どうしてそんなにいいものを選べるんですか?すごすぎ。


塚本:いつも直感です。僕が好きか嫌いかです。そもそも「売る視点」で物選びすると、個性がなくなってしまうからね。だから好きを共感できる人とは、お話がとても長くなるんです。


柳沢:そうですよね。私の買い物は「買い付け」じゃないから、自分が使いたいもの限定で買ってきたものばかりですけどいいんですか?


塚本:もちろん!

 

 

柳沢:でもアジアの国々はどんどん発展しているから、次に行った時には同じものはもうないなんてことは当たり前で。いつも一期一会なんです。


塚本:買い付けもそうですね。一期一会。蚤の市で回ってて後で来ようなんて思うと、売れてたりするし。


柳沢:出会いなんですよね。だからいつも量が少し多くなっちゃう(笑)。


塚本:あはは。いやー、今日は久々にゆっくりお話ができて楽しかったです。


柳沢:こちらこそ~。

 


<プロフィール>

柳沢小実 Konomi Yanagisawa

エッセイスト。1975年、東京都生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。衣食住・収納・旅・台湾にまつわる著書は30冊以上にも及ぶ。整理収納アドバイザー一級。フェリシモで商品開発なども手がける。近刊は『大人の旅じたく』(マイナビ出版)、読売新聞連載をまとめた『おうち時間の作り方』、『すっきり暮らすためのもの選びのコツ』(大和書房)。 Instagram @tokyo_taipei

 

塚本 太朗  Taro Tsukamoto

THE CONRAN SHOP退社後、リドルデザインバンクを設立。現在はTHINK OF THINGSMD企画担当。また、商業施設や駅ナカのショッププロデュースをはじめ、地方活性化の為の商品企画からトータルディレクションをする傍ら、ドイツとオーストリアから買い付けたウェブショップ「マルクト」も運営。著書にマルクト(プチグラパブリッシング)、ウィーントラベルブック(東京地図出版)、ウィーンこだわり旅ブック(産業編集センター)など。