モノが大好きな人にとっては、誰かの持ち物が気になるし、素敵なあの人の持ち物は欲しくなる。あの人はどんなものを持っていて、どんな家でモノに囲まれてくらしているのだろうか。

そんな欲しい、気になるというあなたの希望をバイヤーの塚本太朗が叶える「Sleeper Market」は、毎週フライデー・ナイトの20:00から翌10:00まで時間限定でオープンする売り切れ御免のマーケットです。

気になるあの人のもとに直接伺い私物を買い付けて、オンラインショップだけで販売します。

モノにまつわるエピソードとストーリーとともに、真夜中のお買いものを思う存分お楽しみください。

インタビュー記事の最後に販売商品の一覧があります。

 

Vol.3  一青窈(歌手)


情感が込められた美しい歌声で人々を魅了し、作詞家や俳優としても活躍する一青窈さん。太朗さんとは20年以上のお付き合いで、一青窈さんにとって太朗さんのモノを選ぶ目は、モノと出合った時の大切な一つの基準にもなっているといいます。バイヤー塚本太朗が気になるあの人のプライベート空間にお邪魔して、あんなものやこんなものを買い付ける本企画。一青窈さんとのモノをめぐる楽しい対話をお届けします。

 (写真とテキスト:加藤孝司 Takashi Kato)

 

 

言葉が浮かび上がるモノとの出合い

 

太朗さんとの出会いは……

ーーまずは二人のなれそめを教えていただけますか?

 

一青:90年代後半、太朗くんのリドルデザインがまだ高円寺にあった時に、編集者の深沢くんに紹介されてオフィスに行ったのが最初だったよね?

 

塚本:懐かしいな~。まだ、その長屋はあるのかな。高円寺ならありそうだけどな。

 

一青:それで、そのあとに移転した駒込時代のお店で、マルクトのオリジナルのノートを買ったこともあったっけ。私ノートが好きで、その時、太朗くんのところで買ったノートは、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督の映画『珈琲時光』(2004年)にライター役で出演させていただいた時に使いました。劇中で割と使ってるんです。そして、駒込のあとの馬喰町時代のお店にもよく行っていたよね。それと太朗くんが出版する本には、帯コメントを書かせてもらったりのお付き合いです。

 

塚本:2004年にリリースしたマルクトってタイトルの雑貨本を皮切りに、出す本全ての帯を窈ちゃんに書いてもらったね。2009年に出版した『ウィーントラベルブック』ではウィーンの建物もたくさん紹介していて、その中でも窈ちゃんはオーストリアの建築家、フリーデンスライヒ・フンデルトヴァッサーが好きだとプロフィールにも書いてあったし、建築好きでもあるんだよね?

 

一青:学生時代から建築が好きで、大学受験では建築学科を落ちてSFCに入りました。当時はオランダのMVRDVとか、クライン・ダイサム・アーキテクツが手がけていた東京のクラブの空間だったり、イケイケなものが好きでした(笑)。デビュー当時は建築系の雑誌にもよく出させていただいていました。

 

塚本:そう、そう。。。見たことあるなぁ。

 

 

一青:また太朗くんには、真摯にものづくりをしている作家さんや、ツアー先のおすすめショップなどもよく紹介してもらっていましたよね。

 

塚本:そうだね。つくり手の方もそうだし、森岡書店の森岡さんも。窈ちゃんがツアーでどこかに行く時に、素敵な雑貨屋さんや、つくり手のお知り合い紹介して!と連絡をもらったことも良くあったね。神戸でのツアーでは、当時、北野坂に事務所を構えていたトリトン・グラフィックスの松岡さんを紹介したり(笑)

 

一青:そう、そう。太朗くんは私のツアーコーディネーターさんみたいな感じで。昔、太朗くんと一緒に、編集者の山村光春さんがやっていた「mountain mountain」というお店が好きでよく行っていたね。90年代後半には、別の友達と3人でフリーペーパーを作って、中目黒のオーガニックカフェとかに置いてもらったりしてたな~。グルーヴィジョンズのチャッピーとかも懐かしい…….。

 


一青窈さんのものえらび

 

一青:太朗くん、最近は東京の東側だったよね、どこだったっけ?

 

塚本:台東区鳥越です。鳥越神社があるところ。

 

一青:そうだったね。子供も生まれて、最近は遠出も控えていて行けていないけど、カフェとかもあるんだよね?近いうちに行きたいな~。

 

塚本:最近だと『ウィーンこだわり旅ブック』を出した時も窈ちゃんに帯を書いてもらったよね。その時は東銀座の森岡書店でトークイベントも一緒にしましたね。

 

一青:森岡書店には茅場町時代によく行っていて、森岡さんの好きな昔の本とかをよくみせてもらったなあ~(笑)。森岡さんはいい喫茶店もたくさん知っていますよね。
わたし、太朗くんのセンスを信頼しているんですよ。独特のピックアップで、いつもどうやってモノ選びをしているの?

 

塚本:う~ん。感覚に近い感じかなあ。特に旅先だと、別のお店でまだ出会っていないものが、考えているうちに売れちゃう!と思うと考えている時間がもったいなくて、気になったらとりあえず買っちゃう。だから直感!

 

一青:直感だよね。海外のマーケットに行くと、山のようにあるものの中から太朗くんなら、どれを選ぶだろう?と考えることがあります。


塚本:へ~。それは嬉しい。

 

 

一青:私の場合はノートがとても大切なグッズで、詞を書く時に言葉が浮かぶかどうかを基準にノートを選んでいます。それと、ノートだけでなく古書とか本に、読んだり、見たりして感じたことを書き込んだり。古本屋に行って気に入ったら、詞を書き込める余白がある写真集か絵本を買うことも多いです。著者の方に失礼かもしれないけど。

 

ーーそれは著者の方も嬉しいんじゃないですかね。

 

塚本:それはすごく面白いね。そうかあ。

 

一青:本に書いた言葉はあとでまとめて文字起こしをします。最近は書いたものに子供が上書きをして、読めなくなるつらさもあります(笑)。

 

塚本:あはは。

 

一青:太朗くんとは私のデビュー前に知り合っているから、もう20年以上のお付き合いになるんだね。

 

塚本:ほんと長いよね。いろんなお店でいろんな雑貨を見てた記憶があるかな。そうそう、窈ちゃんがモノを選ぶ時の基準はどんな感じか教えてもらえますか?

 

一青:太朗くんと一緒で、若干動物的な直感という感じ。それと、つくり手の思いがきちんと濃密に入っているもので、カゴが特に好きです。

 


塚本:いれ物好き?

 

一青:うん。とにかく大好き。それも手作りのもので、工芸品に近いもの。それと小さくて儚いものも好きで、ガラスの瓶も好きだったんだけど、子供が生まれてからは遊んでいるうちに割っちゃったりするので、今は封印しています。ガラスの工芸作家さんのものも好きで実は集めています。

 

塚本:やはり作家ものが多いの?

 

一青:太朗くんが好きなドイツ雑貨とかは未知の世界だけど、東欧の人形とかは気になります。

 

塚本:子供が生まれると、いい意味でライフスタイルが自然に変わるよね。

 

一青:うん。子供が生まれてプレゼントしてもらって嬉しかったのは、プフみたいな形をしたオムツ入れです。部屋に出しっぱなしにしてもいいし、すごく便利なの。アートディレクターの森本千絵ちゃんからのいただきものです。

 

 

 

太朗さんが窈さんの愛用品を買い付け

 

塚本:それではそろそろ買い付けを。入れ物が多いって言ってたけど、シェーカーボックスがたくさんあるね。これはどこで買ったもの?

 

一青:アメリカのシェーカーヴィレッジでたくさん買ってきたの。この家を設計していただいた建築家の中村好文さんの社員旅行についていきました。

 

塚本:社員旅行!そんな社員旅行は羨ましい!個人的にも入れ物好きなので、ひとついいですか?

 

一青:シェーカーボックスは全部使っているのよね……。(笑)

 

 

塚本:いっぱいあるから、ぜひひとつくらい……。さてさて、窓辺に置いてあるこの石はなんですか?

 

一青:漆作家の赤木明登さんの能登の工房に伺った際に、浜辺で拾った石です。形と色が変わってて可愛いでしょう?

 

塚本:なんか可愛い~。今、ひそかに石ブームだし、これもいいですか?

 

一青:太朗くんが好きだと思った。思い出の品だけど、いいですよ。

 

塚本:スキップフロアな感じなのね。いいなぁ。で、寝室にあるこの時計は?

 



一青:オランダのアムステルダム市立美術館で一目惚れして購入したもので、イタリアのデザイナー、アンジェロ・マンジャロッティのデザインのもの。

 

塚本:デザインのマスターピース!自分が欲しいわ……。

 

一青:いいでしょう?これはいくら位で買ったかなあ。

 

塚本:それもお願い〜。そして、このインパクトのあるタクシーの行燈照明みたいなものはなんですか?

 

一青:そのアクリルのランプは『花蓮街』(2010年)のツアーのステージ演出で使うために特別に作っていただいたものです。ずっと前に太朗くんに紹介してもらったアクリル職人の兵藤さん作ですよ。

 

 




塚本:おお~、兵藤さん。何個作ったの?

 

一青:一つだけです。

 

塚本:へ~!一つだけ!めちゃめちゃ貴重じゃない?

これいいかな。タクシーの上についている物だと小さく見えるけど、意外と大きいのね。

 

一青:大切に飾ってたんだけど…これ、いいですよ。

 

塚本:子供部屋には絵本がたくさんあるけど、このドイツ語のこの大きな絵本はなんですか?かわいいな。これ欲しい……。

 

 

一青:絵が可愛くて、子供によくみせていました。なんて書いてあるか読めない外国のサイトで2年くらい前にポチりました。で、2年くらい前のライブのステージ演出でも使ったものです。

 

塚本:これも演出で使ったものなんだね。さっき、お話にもあったノートはないですか?

 

一青:ノートは自分で書きやすいノートを長野の美篶堂にオリジナルでオーダーして作ってもらっているものがありますよ。谷川俊太郎さんもオーダーしてるのをみて、私も作ったんです。

 

塚本:オリジナル!すごい。何冊かサインを入れてもらえたりしたらファンも嬉しいかもしれないから、分けてもらえたりする?

 

一青:新品があるから、サイン書きますね。

 

塚本:わー、嬉しいです。いや~、今回は窈ちゃんのたくさんの思い出の品々を見せてもらいましたが、入れ物に入れて収納も兼ねるってアイディアがナイスだなと思いました。
せっかく見せてもらったのに、買い付けしなかったものもたくさんあるけど(スミマセン)、窈ちゃんファンの皆さんにとってもすごくいい品々が揃ったと思います。今日はありがとうございました。

 

<プロフィール>

一青窈  Yo Hitoto

1976年、東京都出身。台湾人の父と日本人の母の間に生まれ、幼少期を台北で過ごす。
2002年、シングル「もらい泣き」でデビュー。翌年、同曲で日本レコード大賞最優秀新人賞などを受賞。5thシングル「ハナミズキ」が大ヒットを記録し、現在も国内外問わず様々なアーティストによりカバーされている。映画や音楽劇への出演、他アーティストへの歌詞提供など、歌手の枠にとらわれず活動の幅を広げている。今年10月にはデビュー20周年を迎える。

 

塚本 太朗  Taro Tsukamoto

THE CONRAN SHOP退社後、リドルデザインバンクを設立。現在はTHINK OF THINGSMD企画担当。また、商業施設や駅ナカのショッププロデュースをはじめ、地方活性化の為の商品企画からトータルディレクションをする傍ら、ドイツとオーストリアから買い付けたウェブショップ「マルクト」も運営。著書にマルクト(プチグラパブリッシング)、ウィーントラベルブック(東京地図出版)、ウィーンこだわり旅ブック(産業編集センター)など。